実践知財塾 第1回 (報告書)
知財戦略とは何か?
実践知財塾 2004年6月17日
第1回担当 弁理士 遠山 勉
実践知財塾第1回の報告書です。ご参考まで・・・。
目次
1.設問
2.コラム「企業の知財戦略」・・竹山宏明
3.知財塾での討議結果の概要
4.知財戦略のキーワード
1.設問
「会社の知財戦略を立てて欲しい」との依頼を受けました。
あなたなら、どのような戦略を立てますか?
知財戦略って言葉。聞こえは良いのですが、いざ、問われると、さて、何をどうすべきなのか、いろいろ迷ってしまいます。知財戦略の手法としてどのようなものがあるのか? 達成すべき目標は、そのアプローチ方法は? 戦略といえるためにはどのような条件を満たす必要があるのか?
いろいろ迷ってしまいますね。実践知財塾第1回のテーマは、「知財戦略とは何か」です。
下記に、討議用の資料として、知財戦略に関係する書籍等から、その知財戦略関連項目として目次のみを拾って紹介させていただきました。戦略を考え、組み立てる参考になろうかと思います。
なお、それに先だって、世話人の弁理士 竹山宏明氏から、知財戦略に関する記事をいただきました。
2.コラム「企業の知財戦略」・・竹山宏明
私が、企業のトップ、或いは知財部長から、「我が社の知財戦略を立案して下さい。」との依頼を受けた場合を仮定してお話を進めさせて頂きます。
まず、「知財戦略」は、「企業戦略に沿った知財部の活動」と考えます。「知財部の活動」は、「メリハリ」のあるものである必要があり、「知財部」の力を、ある分野に集中し、他の分野は切り捨てるという勇気が必要です。
「知財戦略」としては、第一に「企業戦略の把握」、第二に「知財部の活動計画(以下「知財計画」という。)」の立案・実行」、第三に「活動結果の知財計画へのフィード・バック」を一つのサイクルとして繰り返すことが必要なものと考えます。「知財戦略」は、「企業戦略」と遊離しては成立しないものと考えます。
「知財計画」は、短期、中長期的な計画が必要です。
まず、短期計画(3年計画)としては、自社の得意分野のうち、将来性の高い分野に知財部の力を集中する必要が有ります。自社製品の技術的に優れている点を伸ばすように、特許で保護を図ります。また、競業他社の技術的に優れている点があれば、ライセンス交渉をすることも有効です。
中期計画(5年計画)としては、短期計画の実行が挙がり、余力が出た場合に、自社の不得意分野を解析し、その理由が技術にある場合には、競業他社の技術的に優れている点があれば、ライセンス交渉をすることが有効です。
長期計画(10年計画)としては、新規分野への進出を企業が予定している場合には、新規分野の製品を製造する上で、必要となる他社の特許を調査し、ライセンス交渉をすることが有効です。また、M&Aということも視野に入れて活動することも必要となるかもしれません。
知財部の日常の活動を見直し、一点に知財部の力を集中し、他の点を捨てる勇気を持って、メリハリのある活動要求されているように個人的には考えています。
(以上)
3.知財塾での討議結果の概要
第1回の知財塾で討議された内容概略をここにお知らせします。
「経営戦略の中で知財戦略が生きてくるのでは?」との問いかけを口火に様々な意見が出た。
A:どのような経営戦略なのかが問題となるのでは。とどのつまり、利潤の追求という経営目的に資するような知財戦略が必要ではあろう。
B:知財戦略を作れと言われたが、さて、どうすべきか。特許ポートフォリオを作ることのみで本当に知財戦略といえるのか疑問である。
C:ある事業を進めているときに、外国からある特許(US特許)の売り込みが別の事業部にあった。その事業部では、その特許が不要だったので申し出を断った。しかし、その後、前記新事業を進める上で、先の特許が障害となった。一事業部の狭い視野だけで判断してはだめ。会社全体の戦略を考え、日本だけではなく、外国の特許も視野に入れて、事業を進める必要があろう。会社全体の各部門が連携し、情報を共有すべきであろう。
D:知財部だけでの対応もだめでは。
E:戦略を提言するにしても、知財部の地位がある程度高くないと、提言はできない。言われたことをやるだけでは、単に戦術を実行するだけである。戦略を立てるとき、自社にないもの、これまでやったことのないこと、などを新たに選定して、提言することが実際できるようにしないと。
F:会社が持っている商品から戦略を見なければならないのでは・・・。まず、特許を調べなければならないというのは違うのではないか。
G:これから利益を生む製品につき、どのような特許を出していくのがいいのか、というように、商品から見た知財戦略を検討すべきではないか。知財戦略って本当にあるのか? 出願戦略というのはあるが・・・・。
H:ある倒産しそうな中小企業、社長は、技術はすごいのだという。だけど、利益がない・・・。ではどうしたらよいのか・・・。利益がないといけない。マップを作る・・・形はできるけど・・・。それでいいのか。
I:出願は、たま(弾)作り・・戦略でも戦術でもない。単なる戦闘である。
J:知財戦略というけれど、企業同士のM&Aの中に飲み込まれ、それまでの戦略とは別に、一括的、包括的に企業買収という形で、知財問題が一挙に解決してしまう場合がある。そうすると、M&Aも知財戦略ですね。
K:特許の価値が問題となることがあるが、技術だけの価値とどう違うのか?証券化ということも行われた先例もあるが、それは、特許が無効となってしまって、おしゃかになった。無効になってしまうリスクもある「価値」である。・・・技術に特許が付与されていること・・・独占排他権による優位性の確保が付加価値ですね。
L:ベンチャーを立ち上げる際に、知財戦略などなかった。はじめは特許出願どうしようとか、タクティクスしかなくて、それを駆使している内に、戦略が必要になってきた。ミクロ的にみていたばかりではだめで、マクロからみると、別のソリュウションがあるということに気がついた。
M:ターゲット(ライバル会社、ライバル製品、目標とする結果など)が決まっている場合は、動きやすい。あとはどんどん戦略を組める。
N:経営戦略の中で、知財戦略が必要なのであろうが、経営戦略の下、下位の特定の目的に絞り、その目的達成のために知財戦略をどうすべきかを考えると、戦略を組立てやすいのではないか。
O:例えば、ライバル会社への対抗策であるとか、特定商品の販促であるとか、新商品の開発であるとか。
・・・・議論は続き、2時間はあっという間に終わってしまいました。 (以上)
4.経営戦略・知財戦略のキーワード
知財戦略を組む上で、考慮すべき事項とか関連項目を巻末の参考文献からランダムに挙げてみました。
これらの使い回しができれば、一流の知財戦略家???
戦略とは?
【戦略】〔strategy〕
長期的・全体的展望に立った闘争の準備・計画・運用の方法。戦略の具体的遂行である戦術とは区別される。
【戦術】 〔tactics〕
(1)個々の具体的な戦闘における戦闘力の使用法。普通、長期・広範の展望をもつ戦略の下位に属する。
(2)一定の目的を達成するためにとられる手段・方法。 「牛歩―」
知財戦略は経営戦略
知財戦略は企業経営のための戦略の一つである。
経営戦略とは・・・企業がその利潤を追求するための戦略。
戦略とは、企業がその「強み(strength)」を創造・活用し、「弱み(weaknesses)」を補いながら、環境の「脅威(threats)」と「機会(opportunities)」に対応するための行動。
戦略とは:「将来の構想とそれに基づく企業と環境の相互作用の基本的なパターンであり、企業内の人々の意思決定の指針となるもの」(大滝他, 1997)
☆経営戦略の定義としての 「5つのP」
@計画(plan):将来にむけて取るべき行動の指針や方針(現在から将来を見据える)
Aパターン(Pattern):実際に行われた行動(過去の行動を見る)
Bポジション(position):市場における製品の位置づけ(外部指向)
Cパースペクティブ(perspective):企業理念(組織内指向)
D策略(ploy):競争相手を出し抜く具体的な手段
☆戦略要素(1)
競争優位性
(1)外部要因重視:「ポジショニング」による説明
(2)内部要因重視:企業内部の「資源・能力」による説明
競争優位の持続性
「先発の劣位(first-mover disadvantages)」=「後発の優位」
見えざる資産─競争優位の源泉としての「情報的経営資源」
(1)必要不可欠な資源と、優位性を生む資源
・ヒト、モノ、カネの3つの資源は「必要不可欠」
・ヒト・モノ・カネという(そもそも必要な)経営資源を組み合わせて、成果の上がる事業活動をもたらす源泉となるのが「情報」という経営資源。
(2)外部調達が困難
・カネを出しても買えない(自分でつくるしかない)
・作るのにも時間がかかる
→模倣が困難。
(3)同時多重利用が可能(「情報」の特質)
・使っても減らない
☆戦略要素(2)
組織能力(organizational capabilities)
組織に体化された、資源の組み合わせと活用のパターン(ルーチンの束)
5つの競争要因と利益ポテンシャル
◇これら5つの競争要因が強ければ強いほど、その業界の潜在的な平均利益率(利益ポテンシャル)は低くなる。
(1)企業間の対抗度が強い→利益ポテンシャル低い
(2)新規参入の脅威大きい→利益ポテンシャル低い
(3)買い手の交渉力が強い→利益ポテンシャル低い
(4)供給業者の交渉力が強い→利益ポテンシャル低い
(5)代替品の脅威が大きい→利益ポテンシャル低い
既存企業間の敵対関係の強さを規定する要因
(1)競争業者の数が多い、または規模とパワーに関して同等
(2)産業の成長率が低い
(3)固定費が大きい、または在庫費用が大きい
(4)製品に差別化がきかない、またはスイッチング・コストがかからない
(5)生産能力の拡張が小刻みに行えない
(6)多様なバックグラウンドをもつ競争相手がいる
(7)戦略的な価値の高い業界である
(8)退出障壁が高い
競争戦略の基本型
差別化とコストリーダーシップ
マイケル・ポーター『競争の戦略』(1980)
競争戦略の基本型
◆ 競争優位の源泉/戦略ターゲット
◆ コスト・リーダーシップ
標準品を低コスト・低価格で提供
◆ 差別化戦略 Differentiation
高い価値の製品、価格プレミアム
◆ 焦点絞り込み戦略 Focus
特定セグメント:差別化商品または低コスト
差別化戦略
差別化とは・・顧客にとって、当該製品/サービスが、他の製品/サービスとは異なるものとして認知されること。
ターゲットとした顧客から、高い価値を提供していると認知されることが重要。
製品やコストで判断されるとは限らない。
同一の製品でも顧客によって、価値の判断は異なる。
セグメンテーション&ターゲティング
セグメンテーション
定義:特定のマーケティング・ミックスに対して類似の反応を示すような同質的な部分に市場を分解する。
前提:市場は同質ではないが、全く異質でもない。
例示:女性の化粧ライフサイクル
基本方針「セグメント内では同質、セグメント間では異質」
ターゲティング:市場空間の選択
Mass Marketing(無差別マーケティング)
Differentiated Marketing(差別化マーケティング)
Focused Marketing(集中マーケティング)
Tailored (One-to-One) Marketing(個別マーケティング)
流通チャネル Place
閉鎖型チャネル政策
中間の流通業者を特定して、比較的狭い範囲の小売業者に製品を流す。
開放型チャネル政策
中間の流通業者を特定せず、広い範囲に製品を流す
物流システム
インターネットの利用
プロモーション(販売促進)
広告
市場地位
リーダー・・最大シェア
チャレンジャー ・・中位シェア ・・リーダーに挑む
ニッチャー ・・市場規模が小さい
他の企業が思いつかないセグメンテーション
小シェア≠ニッチャー
フォロワー ・・リーダーに対する攻撃姿勢はない
ここまでは、東京大学 経済学部 新宅 純二郎教授のHPからのキーワード
競争優位性
V: Value(価値)、R: Rareness(希少性)、I: Imitability(模倣可能性)
テクノロジー・リスクマネジメント
テクノロジー・ファイナンス
ビジネスモデル特許
情報技術と知財
知財会計
知識社会
テクノロジー・マーケティング
知財法務
ベンチャーインキュベーション
パテントマップ
パテントポートフォリオ
ブランド戦略
特許の活用
特許権の価値
特許事務所(弁理士)の選択
特許の発掘
商標ネーミング戦略
パテントリストラ
特許を基にした資金調達
アライアンス
特許と補助金や助成金
知的財産権侵害物品の輸入差止
特許の証券化
特許と国際標準を一体化
IT関連特許
従業者発明:発明の対価
着想フェーズ
(1) NM法
(2) KJ法
(3) TRIZ
(4) 価値工学(VE〉
(5) ブレーンストーミング
オープンライセンスポリシー
マーケットシェアポリシー(特許権侵害訴訟による排他権の行使)
知的財産権の経済的価値
インカム・アプローチ
DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法
キャッシュ・フローの予測
割引率(資本コスト〉の設定
モンテカルロ・シミュレーション
ブラック・ショールズ・モデル
リリーフ・フロム・ロイヤリティ法(免除ロイヤリテイ法)と25%ルール
ポテンシャル・ライセンス・バリュー(PLV法)
マーケット・アプローチ
コスト・アプローチ
金融工学的アプローチ
投資対象としての知的財産権
技術移転と特許戦略
大学発の技術移転
企業間の技術移転
政府・国レベルの技術移転
知財の管理費用を減らす
部門横断的なメンバーによる知的財産委員会の設立
特許の選別
企業ビジョンと企業戦略を明確にする
知的財産インテグレーション
ナレッジマネジメント
知的資本マネジメント
ポートフォリオ・マイニング
MOT(技術経営)
先端技術マネジメント
商品開発マネジメント
グローバル・テクノロジーマネジメント
産学連携マネジメント
リスクマネジメント
オペレーションマネジメント
サプライチェーンマネジメント
生産経営システム設計
技術経営のための投資意思決定
グローバル・プロジェクトマネジメント
インフォメーションマネジメント
IT戦略マネジメント
技術ナレッジマネジメント
参考文献
東京大学 経済学部 新宅 純二郎教授のHP
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~shintaku/
新宅教授の資料
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~shintaku/lecture/strategy/content.htm
役員室にエジソンがいたら 知的財産で勝つ経営戦略
監訳:一柳 良雄
著者:ジュリー・L・デービス(Julie L. Davis)
スーザン・S・ハリソン(Suzanne S.Harrison)
出版社:かんき出版
理系人間のための経営戦略入門
著者:柴田 英寿
出版社:実業之日本社
知的財産 戦略・評価・会計
編著:渡邊 俊輔
出版社:東洋経済新報社
技術系のMBA MOT入門
監修:寺本 義也・松田 修一
著者:早稲田ビジネススコール
発行所:日本能率協会マネジメントセンター
他